ボトックス治療 その2
- 2023年2月15日
- ボトックス治療
前回は脳卒中の痙縮に対するボトックス治療についてお話させて頂きました。
ボトックスは美容業界だけでなく、保険適応となっている疾患に対する治療にも使われます。当院では脳卒中と原発性腋窩多汗症に対してのボトックス治療を行っています。今回は原発性腋窩多汗症に対するボトックス治療について書いてみます。
~原発性腋窩多汗症とは~
原発性腋窩多汗症とは聞きなれない疾患かと思います。ざっくりゆうと「汗かき」です。
汗にはエクリン腺とアポクリン腺の二つの汗を分泌させるところがありこの多汗症はエクリン腺からでる汗が大量に出る病気です。エクリン腺からでる汗に匂いはあまりありませんが、アポクリン腺からでる汗は皮脂を多く含んでおり悪臭がします。
エクリン腺からの汗が大量に出て、悪臭を放つアポクリン腺からの汗と混ざり合うことで「わきが」と呼ばれる状態になります。
~なんでなるの~
原因は解明されていませんが、同じ家系の人に多いことから遺伝が関係するのではとされています。精神的なストレスを感じやすい人、脂っこいものが好きな人、わき毛が濃い人に多い傾向があります。
人間はストレスや緊張感を覚える場面では交感神経が過敏に働きます。交感神経が過敏になると汗が大量に分泌されます。脇汗が多いですが手のひらや足の裏にも大量の汗をかいてしまう症状もあります。
~診断は~
日本には10人に一人程度、原発性腋窩多汗症の人がいるとされています。しかしながら、汗かきを自覚していても病院に行こうとはなかなか思わない人も多いと思いますので、実際にどの程度いるのかは不明です。
診断基準としては日本皮膚科学会より
「わきの下の多汗が6か月以上続いていること」に加えて
・発症が25歳以下
・左右対称に発汗する
・睡眠中は発汗が止まる
・週に1回以上の多汗のエピソードがある
・家族歴がある
・日常生活に支障をきたす
上記の6項目より2つ以上当てはまる場合を原発性腋窩多汗症と診断します。
~どうすればいいの~
以前は塩化アルミニウムを使った薬を塗ったりする方法がありましたが、保険適応外でした。また、レーザーやマイクロ波などを使う方法も保険適応外でした。そのため、多汗症を病院で治療することが難しく、病院を受診して治すものとして意識されなかったのかと思います。しかし、近年では抗コリン製剤とゆう別のメカニズムで汗を抑える薬が保険適応になり、ボトックス治療も保険適応で行うことができました。
これにより病院で保険適応内の治療を行うことが可能となりました。
多汗症の治療といえば自費で高額になると考え、市販のデオドラント剤でしのいでこられた方々も保険適応内でできる治療が出てきたことで選択肢が増えていくのではと思います。
多汗症はストレスや緊張状態によって誘発されやすい症状です。また、汗が大量に出てくると余計に気になって汗をかいてしまうことがあり、精神的な苦痛につながりやすいものです。当院では不安を和らげる薬をうまく併用しながら汗を抑える薬やボトックス治療を使うことで普段の悩みが解消することができます。
自分の母が皮膚科医をしていて多汗症の知識を得ることができたことと脳卒中でのボトックス治療を開始した際にボトックスの扱いができるようになったこと、自分自身も汗っかきであることから当院でも積極的に多汗症の治療を行っております。