高齢者が転倒で起こる麻痺
- 2022年11月2日
- 高齢者の転倒で起こる麻痺
今回は高齢者がこけたときに起こる麻痺について書いてみます。
交通事故などで転倒して首を痛めると首にある脊髄が損傷し、脊髄損傷になることがあります。
特に高齢者ではこけたときに頭をぶつけたり、首を痛めやすいこけかたをしてしまいがちです。脊髄が損傷してしまうとどうなるか、どうしたら予防できるのか考えてみたいと思います。
~どうなるの?~
脊髄は脳と体をつなぐ神経の太い束で、背骨の中にある脊柱管の中で保護されています。ころんだり、ぶつかったりして背骨が折れたりずれたりするようなけがでなくても、転んで頭をぶつけて首をそらしすぎただけでも、背骨の中を通る脊髄が損傷を受け麻痺を起こすことがあり、これを脊髄損傷と呼びます。
脊髄が痛めば、運動神経や感覚神経、自律神経がうまく働かなくなります。
つまり、手足がうまく動かず、感覚が悪くなるだけでなく、尿が出にくくなったり血圧や汗の調整が難しくなったりします。ひどい場合は全く自分で動くことができずに感覚も失われ尿も自分で出せなくなります。比較的軽い麻痺でも、足が動いても手が動きにくく日常生活に大きな不自由さを残す場合もありますし、麻痺している部分の痛みに悩まされる方もいます。
~なんでなるの?~
脊髄損傷は若い人が交通事故や作業中の事故などが原因になることが多くありました。しかしながら、最近は高齢の方が自宅で転んだり、階段から滑り落ちたりして首を痛めることが非常に多くなっています。70歳代では1万人あたりに年間3人の方が脊髄損傷になっているとの統計もあります。
高齢になると首の筋力が落ちていたり、もともと脊髄の通り道が狭いことから脊髄損傷が起こしやすい状態になっています。さらに、転倒した時に若いころなら足で踏ん張れたり、手で支えられたものが動作が鈍くなっていることから頭を打ち、首にダメージを追ってしまうことも脊髄損傷を起こしてしまう原因になっています。
いったん切れてしまった脊髄は手術しても回復しません。ただ、神経が切れずに損傷した背骨によって圧迫されているだけの場合は手術によってある程度回復することがあります。
~診断方法は?~
ケガをした直後から手足の動きが悪くなります。麻痺が出てすぐに回復した場合でも詳しく調べると脊柱管の中で脊髄に余裕がなく、同じようなケガをすると次はひどい麻痺を残してしまう危険性があります。
レントゲンで背骨の骨折や脱臼がわかる場合もありますが、骨には大きな問題がない場合も多いです。この場合でもMRIを取ると脊髄が痛んでいることがはっきりします。
麻痺が回復するかどうかは最初のまひの重さが大きくかかわります。ケガをしてしばらくしても麻痺している部分のはっきりした動きがない方は重い麻痺を残す可能性が高くなります。
~予防と治療は?~
治療の中心はリハビリテーションになります。脊髄損傷の場合、運動と感覚のまひだけではないので床ずれ予防や尿の管理などを含めた体全体のケアが必要になります。リハビリテーションを進め、家庭の環境を整えれば重い麻痺でも自宅で生活を送ることはできますし、軽度のまひであればけがをする前に近い生活に戻ることができます。
ただ、完全に治す治療法がないので、予防することが大切です。
普段から運動習慣を持ち、段差をなくすなどの転ばない工夫をしておくとよいと思います。
ケガをしなくても早歩きや足がもつれる感じ、階段を降りるときに頼りなさがあれば築かないうちに脊髄が痛んでいる可能性があります。
高齢者は転倒しただけで想像以上に大きな後遺症が残ってしまうことがあります。
日ごろから転倒しないように必要なバランス感覚や筋力を身につけておくことが大切です。リハビリを通じて体調管理を行い、身近なところはバリアフリーとしておくことが最大の予防になると思います。
それではまた来週。